第二十章 隠者の村

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「そっか......頭を強く打っとるからかのう。多分、記憶喪失ってやつなんじゃろうな」 老女は腕を組んで考え込んでしまった。 暫くこの家で休ませて、回復したらこの娘の家に送り届けてやるつもりでいたんだが......記憶喪失とあっては家にも送りようが無い。 果て、困ったものだ...... 老女がどう話を進めていいか決めかねていると、今度はエマが口を開いた。 「もし、差し支えなければ......何でも結構ですので、私の事で知ってらっしゃる事をお教え頂けませんでしょうか」 痛々しい程に必死の形相だ。無理も無い。 どうしたものだろうか...... まだ精神的に不安定な状況であるのに、バカ正直に滝の上から落ちて来たなどと、真実を吐露してしまっていいものなのだろうか......そんな話をしたら、更に混乱するのでは無いか...... 老女が解答を決めきれず、再び困惑の表情を浮かべたその時だった。 「君の事については私が教えてあげよう」 気付けば廊下に一人の青年が立っている。いつからここに立って居たのだろうか。エマはその青年の存在に全く気付いていなかった。 「おや、勝也。帰って来ておったのか」 「今ちょうど畑から帰って来たところだよ。目を覚ましたようだね。良かった」 「勝也さんと申されるのですね。お陰様で、意識を取り戻す事が出来ました。今こちらのお母様にもお伝えしたのですが、目が覚めたら全く過去の記憶が無くなっていたんです。どうか、私の事について知ってらっしゃる事をお教え下さい」 エマはまるですがるような気持ちで、勝也に知っている事の開示を求めた。
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