第二十章 隠者の村

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牧子を残し、和室を後にした勝也と母の二人。 「......」 「......」 無言で廊下を歩き抜けると、台所の扉を開けて椅子に腰を下ろす。そして息つく間も無く、母が苦言を呈した。 「おい、勝也。お前どう言うつもりなんじゃ。そんな嘘が突き通せるとでも思っとるのか?」 母は、勝也の自分本意な『嘘』に納得がいかない。常識の有る人間であれば当たり前の話だ。 そんな不機嫌極まりの無い母に対し、勝也は検討違いとも取れる質問で切り返す。 「母さん、よく考えてみてくれ。今まで『ほこらの滝』の上から落ちて、生きてた奴居るか?」 「あの滝から落ちて生きていた者などおらん」 そんな解りきった質問を、あえてこの場でしてくる息子の真意が掴めない。その事と今回の『嘘』と、一体何の関係があると言うのだ?  この後、勝也の口から飛んでも無い屁理屈が飛び出す事くらいは容易に想像が出来た。 「そうだろう。あの滝から落ちた人間は皆死ぬんだよ。だからあの女性はもう死んだんだ。なのに生きてるように見える......なぜだか解るかい?」 「お前は一体何を言ってるんじゃ?!」 いよいよ意味が解らない。母の顔は更に苦り切った不審顔へと変貌を遂げていく。 「あの娘は牧子なんだよ。牧子が魂の抜けたあの身体に入り込んで、俺達の元に帰って来てくれたんだ。そう考えるのが一番自然じゃないか。 それとも何かい? 母さんはあの女性が牧子じゃ無かったら追い出すつもりかい? 追い出された彼女はどこに行くって言うんだ? どう考えたって、彼女の為にも彼女は牧子であるべきなんだ!  僕は彼女を、牧子以上に愛してあげれる自信がある。この家は先祖代々村長の血を引く由緒ある家柄だ。彼女にとっても牧子でいる事が一番の幸せなんだよ。 意外と彼女は僕の嫁になりたいが為に、記憶を失った振りしてるだけかも知れないぞ。それならそれで僕は受け入れてやるつもりだ」
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