第二十章 隠者の村

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呆れてものが言えない...... 自分の教育は間違っていたのか....... そんな居たたまれない苦痛の表情を浮かべる母ではあったが、やはり子供は子供。いくつになっても可愛く思える気持ちに変わりは無い。 母の手には、いつの間に仏壇に掲げられていた遺影が持たれていた。 それに気付いた勝也は頬の肉を弛めると、再び口を開いた。 「おや母さん、ナイスフォロー有り難う。そんなもんが仏壇に置かれてたら、今の牧子が牧子じゃなくなっちゃうもんな。感謝、感謝です」 実に満足気気な表情だ。 「勝也......よく聞け。あたしはとにかく嘘は大嫌いだ。とは言え、あの娘さんも記憶が無い以上、今うちを追い出されても困るじゃろう。 それにいつまでもお前に塞ぎ困れてても困る。本意じゃなけど致し方無い。あたしもあの娘さんの事を今日から『牧子』と信じる事にしよう。 但し、もしあの娘さんが本当の事を知って、この家から出たいと言ったらすぐに返してやる。それだけは今この場で約束しろ」 母の顔には決意が現れていた。やはり理性より息子への愛が上回っていたのだろう。 「勿論だ。でもそんな事にならないようにしないとね。親父は多分理解してくれるだろう。それより問題は他の村民だな......」 「この村は小さい。全部で20戸足らずじゃ。皆、先祖代々この『羽黒家』に恩義を感じてるし、金を貸してやってる衆も多い。今日中にあたしが村をまわって、口裏を合わすよう頼んどいてやる。みんな余計な事は言わんじゃろう。そこは任せとけ」 結局、この『富士国』においても権力、財力には逆らえない。そんな内情を浮き彫りにするような母の発言だった。
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