第二十章 隠者の村

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「恩にきるよ母さん。だから僕は母さんが大好きなんだ!」 「全く......この甘ったれ息子が」 やれやれ......そんな表情だ。  ※  ※  ※ 一方、そんな会話が秘密裏に為されている事など知るよしも無い牧子(エマ)は...... 本当に私はあの勝也さんの妻なのだろうか...... なんか違うような気もするんだけど...... やはりそんな事ばかりを考えてしまう。 でも妻である事を否定するだけの根拠は何も無い。当たり前だ。過去の記憶を全て失ってる訳なんだから...... 多分だけど......落ち着けば、記憶も徐々に戻って来るんじゃないだろうか...... そうだ、きっと戻って来る!  戻れば自動的に解る事じゃ無いか。 今無理に思い出そうとしても、頭が割れるように痛むだけだ。考えれば考える程、記憶が遠退いていくような気さえする。 記憶の復活は時間の流れに任せる事にして、今は自分が出来る事をやろう...... いずれににせよ、このままただの居候と言う訳にもいかないし......一宿一飯の恩義を返さなければ礼に欠く。 体力はもう戻ってるんだ。起きなければ..... 牧子はゆっくりと布団から起き上がった。多少ふらつきはあるが、歩くのに支障を来す程では無かった。 障子を開けて廊下に出てみた。差し込む日差しが妙に眩しい。
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