第二十章 隠者の村

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男の子は掛け声一発、猪武者の如く、ろくに前を見る事もせずに猛突進を開始すた。 それに対し女の子の方はと言うと、大きな目をクワッと見開き、しっかりと男の子の動きを見極めている。 最早この時点で勝負有りと言っても、決して過言では無かった。 「ふんっ、」 案の定、女の子は軽く鼻を鳴らし、飛び込んで来た男の子の巨漢をさらりと翻す。 「えっ、?」 一瞬前までは、間違い無く目の前に居たはずの女の子の姿が、なぜか今は消えている。 「しまった!」 今更気付いても後の祭。全体重を乗せた巨漢の突進は、最早誰にも止められない。 男の子は勢い余って土俵を越え、そのまま縁側の前で豪快に転がり落ちてしまった。 ドスンッ。 倒れた瞬間、砂煙が煙幕のように辺りを包み込んだ。 結局この勝負...... 対峙した二人の身体は一度も触れ合う事無く、1秒足らずで敢えなく終了。 余りに呆気ない幕切れだった。 「いてててて......」 男の子は地べたにうずくまり、見れば苦痛に顔が歪んでいる。 「大変! ボク大丈夫?」 余りに見事な倒れっ振りに、牧子は目を丸くして反射的に素足で縁側から飛び降りると、そのまま男の子の身体を優しく抱き起こした。見れば肘を擦りむき、血が滲んでいるでは無いか。 「あら、怪我しちゃったみたいね。直ぐに消毒しないといけないわ」
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