第二十章 隠者の村

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心配顔の牧子に対し、男の子は精一杯の痩せ我慢を見せる。 「大丈夫だーい! こんくらいへっちゃらだー!」 女の子に投げ飛ばされても、男の子は男の子。それなりのプライドがあるようだ。 「あれー、お姉ちゃんだーれ?」 気付けば、今男の子を投げ飛ばしたばかりの小さな女の子が、牧子の姿を見付けて歩み寄って来た。 そしてその子に続き、土俵を囲んでいた複数の子供達も皆興味津々、勇み足で駆け寄って来る。 ここは都会から隔離された山奥の小さな村。外部からの来訪者など、年に一回見るか見ないかと言うと程度。 そんな村の子供達が、初めて見る人間に興味を示すのはむしろ当たり前の事。しかも丸坊主とあらば尚更だ。 そんな初顔たる牧子は、少女の当然とも言える質問に対し、困惑を隠し切れない。   私は誰かって?...... それはこっちが聞きたいセリフだ。 どうしよう...... 何て答えたらいいのかな? この小さな子供達に、記憶喪失などと言ったところで、理解出来る訳が無い。 ここはうまく話を変えるしか無い...... 「私はちょっとこのお家に遊びに来てただけなの。そんな事よりもお嬢ちゃん名前は? 凄い強いね。お姉ちゃんほんとビックリしたよ」 牧子はお世辞でも何でもなく、正直な気持ちをそのまま伝えた。 「あたしは鶴(つる)よ。これからもっともっと強くなって、将来絶対『アマゾネス』に入るの。そんでね、『玄武』のお頭さんみたいに、『富士国』の為に死んでヒーローになりたいの」
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