第二十章 隠者の村

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やがて...... 牧子はゆっくりと口を開いた。 それは親が子に諭す...... そんな話し方だった。 「みんな......いいかい? これが命を掛けるって事なんだよ...... 大事な人を命掛けで守る事と、命を軽んじる事は全然違うんだ。解るね...... 君達が簡単に死んでしまったら......君達の大事な人を誰が守るんだい?  君達にはこれからもいっぱい、いっぱい生きて貰って、自分達よりも弱い人達を守ってあげて欲しいんだ。 それが出来て、初めて君達はヒーローになれるんだよ。解ったね」 牧子はニコリと笑う。 左腕からは、未だおびただしい血が流れ落ち続けている。思わず目を背けたくなるような傷口だ。 血は噛み付かれた時に吹き飛び、牧子の寝着を真っ赤に染めていた。 にも関わらず牧子は、優しい笑顔で未来ある子供達に語り掛けていた。 そんな牧子の愛情を、見事に受け止めた子供達はと言うと...... 「「うぇ~!.......」」 「「お姉ちゃん、手からいっぱい血が出てる!......お姉ちゃん死んじゃうよ!」」 押さえ込んでいた感情が一気に爆発したのだろう。 子供達は堰を切った濁流のごとく、一斉に泣き出し始めた。 『死んでヒーローになる』などと、口では語っていても、やはり子供は子供。あの狂暴な野犬に襲われて泣かない子供は居ない。
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