第二十章 隠者の村

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「今、野犬が子供達を襲って来て......無我夢中で追い払ったら左腕を噛まれてしまいました。でも大丈夫です。大した事ありません」 牧子は傷の深さに反して、驚く程に冷静だった。 とにかく子供達に怪我が無くて良かった......今はそれだけで十分満足だった。 「野犬だって! わ、解った。直ぐにハンターを手配して、二度とこんな事が起きないようにしよう......それよりもその怪我だ。頼むから狂犬病になんかならないでくれよ。直ぐに車を用意するから。八雲先生の所に行くぞ」 勝也の顔は、見る見るうちに青ざめていく。こんな酷い怪我を見た事が無いのだろう。 狂犬病になるな、なんて私に言われても困る。それから八雲先生って......私が眠りに就く前にも診てもらったらしいけど。 こんな山奥の村にも医者が居るんだ......どんな先生だろう? まぁ、どうでもいい事なんなけど...... やがて勝也が、車を玄関の前に寄せて来た。よっぽど慌てていたのだろう。スリッパを履いたままだ。 「牧子、さぁ乗って。じゃあ母さん行って来るよ」 「気を付けて行っておいで」 母も勝也と同じく表情は悲壮感が漂っている。自分の家の庭に野犬が現れた事もショックではあったが、あの傷をまともに見てしまえば、誰でも血の気が失せる。 元々貧血気味であるこの母にとっては、正に試練とも言えた。
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