第二十一章 Dr.八雲 

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翌日16時 トントントン...... 『羽黒家』の台所では日常の如く、包丁が生板を叩く音がリズミカルに響き渡っている。 『羽黒家』の夕食は、仕来たりとして17時からと決められていた。田舎の一日は朝が早いだけに夜も早いようだ。 「おい、母さん。昨日の今日で牧子は大丈夫なのか? まぁ、嬉しい限りなんだが......」 勝也は1階の大広間で、足を投げ出しながらも心配顔で問い掛けた。 「左腕は動かせるから、大丈夫だって......勿論あたしは休んでろって言ったんじゃぞ。でもどうしても夕飯くらい作らせろってきかないんじゃ......多分休んでるだけじゃ落ち着かないんだろうな。好きなようにさせてやればいい」 母は座布団の上に正座し、勝也の問いに答える。別に勝也に叱られている訳では無い。正座がこの母のスタンダードなのだろう。 「そうか......傷口がまた開いたりしなければいいんだがな。まぁ、本人がそれで気が紛れるんなら、任せるとしよう......それより母さん。村人の方は大丈夫か? 抜かりは無いな」 「そこは安心しとけ。村の衆にはくれぐれも釘を刺しといたから大丈夫じゃ。わざわざ余計な事喋って、この『羽黒家』を敵に回す者もおらんじゃろ」 「ならいいんだが......」 勝也は不安の表情を隠し切れない。 「大丈夫じゃって......そんな事よりも楽しみじゃないか。『牧子』の料理食べるのも2年振りじゃぞ。お前も懐かしいんじゃ無いか?」 「懐かしい? ああ......そうだな」
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