第二十一章 Dr.八雲 

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牧子が小麦色に輝いたエビフライを、器用に菜箸で掬い上げたその時だった。 バタンッ。 台所の扉が勢いよく開く。 誰? 勝也さん...... 見れば勝也がハァ、ハァと肩で息をしている。 来客があった筈だけど......何かあったのかな? すると勝也は、 「牧子、これ!」 右手に何かを持っている。 見ればそれは...... 「えっ、カツラ?」 牧子は目を点にした。 「そうだ、カツラだ。その頭じゃ冬だし寒かろう。きっと似合うと思うよ」 ボブヘアーの可愛らしいカツラだ。 古めかしい田舎家屋での一幕ゆえに『カツラ』などと呼んではいるが、所謂『ウィッグ』である。 「これを私に......」 「そうだ。被って見せておくれ」 「......」 牧子は無言で勝也からウィッグを受け取ると、恥じらいの表情を浮かべながらゆっくりと頭に乗せた。そして手グシで慣らしていく。 ちょっと、どんな顔になってるんだろう? どこにも鏡無いし...... なんかヤダな...... 恐る恐る勝也の顔を覗いてみる。 すると...... 「牧子...... 」 何と勝也は目一杯に涙を浮かべ感極まった様子。 なっ、何泣いてんだ?! このリアクションは理解不能だ。
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