第二十一章 Dr.八雲 

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清楚な顔立ちに黒髪のボブヘアー......それは勝也の記憶に残る牧子そのものと言っても過言では無かった。 2年前...... 牧子は病に侵され、治療の副作用により、髪の毛は瞬く間に全て抜け落ちていった。 髪の毛は女の命......そんな言葉が象徴するかように、変わり果てた自身の姿に生きる希望を失い掛けていた牧子だった。 『牧子......これを被ってみろ』 そんな生きる希望を失い掛けた牧子に、勝也が用意した物......それはウィッグだった。 その時、恥じらいながら被った牧子の顔が未だ忘れられず、今も鮮明に記憶に残っている。 今、目の前に映る『牧子』の姿......それはまるで2年前の再現フィルムを見ているかのようだった。 偶然ではあるが、実際顔も良く似ている。 この女性は牧子の生まれ替わり...... そのような自己中心的な発想を、勝也が何の抵抗も無く抱いた事も何となく解るような気もする。 「凄い良く似合うよ。お前は俺だけの『牧子』だ...... 」 感慨深げにそう告げると、勝也は頬を伝う涙を隠すかのように顔を背け、そのまま台所を後にしていった。 今『牧子』が被っているウィッグ...... それは生前、牧子が使っていたものに他ならない。 勝也は牧子の事が未だ忘れられずに、牧子の持ち物は全て捨てずに残していた。それがそんな遺品の一つであった事は間違い無い。 今日『赤』が訪れ、アマゾネスが『頭』、即ち『牧子』を探している事を知り、カモフラージュの為、咄嗟にウィッグを思い付いた。そんな次第だ。
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