第二十一章 Dr.八雲 

9/48
前へ
/1040ページ
次へ
『牧子』は、ステンレスのやかんに映る自身の顔を見詰めながら、心なしか頬を赤らめている。 結構似合ってるかも...... 髪の毛が生え揃うまで被ってようっと...... ふふふ...... 『EMA探偵事務所』を立ち上げ、無意識のうちに封印していたエマの『乙女心』...... それが記憶喪失と言う思わぬ事態に寄り、その封印が今、解かれ始めていた。 仮にエマの記憶が蘇り『EMA探偵事務所』の代表に甦ったとして...... それまでのような泣く子も黙る『GOD』に戻れるのかどうか...... 一抹の不安を隠しきれない。 嬉しそうな表情を浮かべながら、やかんに映った顔となおもにらめっこを続ける『牧子』 それは普通の25歳。乙女の顔に他ならなかった。 ふふふ...... なんか可愛い....... ............ ............ 3枚の大皿の上にそれぞれ特大エビフライ、キャベツのみじん切りを乗せていく『牧子』 ご飯も炊き上がり、予め仕込んおいたけんちん汁を丁寧によそっていく。 1年前...... エマが極神島の牢獄に幽閉された時、自身のアレルギー食材と知りながら、それをあえて口にして、騒ぎを起こした。 結局、その騒ぎにつけこんで、まんまと牢獄から抜け出した訳ではあるが、それは正に捨て身の戦法であり、一つ間違えれば命を落としかねない危険な賭けと言わざるを得なかった。 その食材こそが『エビ』であり、エマから成り代わった『牧子』が、自身のそんなアレルギー体質の事を知るよしも無い。 『羽黒家』における今日の晩餐は、もしかしたら最後の晩餐になってしまうのでは......決して有り得ない話では無かった。 『牧子』にまだ神の御加護が残っている事を、ただ祈るばかりだ。
/1040ページ

最初のコメントを投稿しよう!

366人が本棚に入れています
本棚に追加