第二十一章 Dr.八雲 

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 ※  ※  ※ 『八雲診療所』 村の一番奥。山の斜面に面した古めかしい平屋の建物には、そんな看板が掲げられていた。 看板と言ったら少し大袈裟かも知れない。縦長の木の板に、ペンキでそのように書かれたオブジェ程度の物だ。 時刻は17時30分。 1月中旬ともなれば、太陽は山の影にその姿を隠し、夜空には無数の星が輝きを見せ始めていた。 辺境とも言える山間の村ともなれば、都会と違って外灯などのインフラは決して満足出来るようなものでは無い。 『八雲診療所』の窓から漏れるオレンジ色の灯りが、暗闇の中で蛍のように淡い光を放っていた。 「はい、これでいいでしょう。傷口をいじっちゃダメだよ。バイ菌入っちゃたら大変だからね。 あとこれは化膿止めの薬。毎朝食後に1錠飲んでね。今日1日くらいは少し痛みが出るかも知れないけど、君は男の子だから我慢出来るな?」 白衣を纏った医師が、真ん丸に太った男の子に告げた。 男の子は多分5歳くらい。『わんぱく少年』を絵に描いたような風貌だ。 いたずらして怪我でもしたのだろう。右手の甲には包帯が巻かれていた。 「我慢出きるやーい!」 ついさっきまでは、お母さんにへばり付いて大泣きしていたのが嘘のような頼もしい返事が返ってくる。治療が無事に終わって安心したのだろう。
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