第二十一章 Dr.八雲 

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「いや、嘘みたいな話ですが、本当なんです。今、生きてる事の方が不思議な位です」 見れば、壁には年期の入った松葉杖が立て掛けられている。どうやら話は本当のようだ。 「それは、それは......先生も色々大変なんですね」 余計な事聞いちゃったな...... 母親の顔には、そんな後悔の念が有り有りと浮かび上がっている。 「まあ、もう昔の話です。情けないんで余り皆さんにお話なさらないで下さいね。ハッ、ハッ、ハッ」 「勿論話しませんよ......それじゃあ、私達はこれで。さぁ鉄男、行くわよ」 「はいよ、母ちゃん!」 「お大事に」 ガラガラガラ...... 古めかしい大きなガラス戸は、最後の患者を送り出すと、八雲医師と共に今日の役目を終えた。 さてと...... 店じまいとするか...... 八雲は杖を突きながら診療所の外へ出て行き『診療中』の札を裏返しにした。 今日は快晴だ...... 星がよく見える......
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