第二十一章 Dr.八雲 

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まあ、とにかく山の中はよく冷える...... 南国の冬とは訳が違うな...... 診療所内は患者の体調を考慮し、常に暖炉の火をガンガンに炊いている。少し汗ばむくらいだ。 しかし一歩外へ出てしまえば、そこは高地であり、その寒さも平野部とは比べ物にならない。背筋が凍るような寒さだ。 この氷柱が解ける頃には何とかせんといかんな...... 八雲は身体を震わせながら、柄にもなく夜空を見上げ黄昏ていた。 この八雲と言う男...... どうも謎が多い。 本人曰く、以前は大病院に勤めていたと言う事らしいが、なぜこんな山奥の村に開業する必要があったのだろうか? 人口密度が極端に低いこんな場所を選ぶくらいだから、まさか採算目的と言う訳では無かろう。 では人助け? さっきの母が言っていたように、この村の民にとっては、医師がここに居るだけも有り難い話だ。 そう言った意味では、確かに『人助け』にはなっている。 それだけなのだろうか...... 都会の荒波に疲れ、貯金を叩いて拠点を田舎に移す初老も多いこの時代ではあるが、この男の顔つきを見る限り、まだ血気盛んであり、今の時点で安息を求めているようには見えない。 何か別に理由が有りそうな気がしてならない。 まあ......憶測の域を超えた話では無いが。
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