第二十一章 Dr.八雲 

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ガガガガガ...... ん? 突如、八雲を空想の世界から呼び戻すかのように、1台の車が砂利を飛ばしながら猛スピードでこちらにやって来る。 なんだこんな時間に? 車が猛スピードで診療所に向かって来る理由など、凡そ一つしか無い。 急患か?! いや、待てよ...... あの車...... 間違い無い。 『羽黒家』の車だ! キー。 やがて訪れた車は、嫌なブレーキ音を立ち上げながら『八雲診療所』の前で停止した。 それは八雲の推察通り『羽黒家』の車。当然の事ながら運転手は勝也だ。 「八雲先生! 大変なんです。牧子が! 牧子が!......」 勝也は血相を変えて運転席から飛び出すと、助手席から『牧子』を担ぎ出した。よっぽど焦っているのだろう。情けない程に腰が引けている。 この世の終わり......正にそんな表情を浮かべていた。 ゼェ、ゼェ、ゼェ...... ゼェ、ゼェ、ゼェ...... 『牧子』は顔を真っ赤にし、苦しそうな呼吸を繰り返している。 これはただ事では無い! 素人の勝也が見ても、玄人の八雲が見てもそれは明らかだった。 「どうしました羽黒さん?!」 八雲は診療所の扉を乱暴に開けながら問い掛けた。 ガラガラガラ! 大きなガラス戸も、まだ今日のお勤めを終えていなかったようだ。 「そっ、それがよく解らないんです。夕食を食べた途端に苦しみ始めて......それまでは全然元気だったのに...... 『牧子』が食べた物は、全て私と母も口にしています。ですから食べ物が原因では無いと思うのですが......」
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