第二十一章 Dr.八雲 

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額から異常な量の脂汗を流し続ける『牧子』を横目で見詰めながら、勝也は涙声で訴えた。 それに対し八雲は冷静そのもの。慌てふためく勝也を嘲笑うかのように、実に落ち着き払った態度だ。 きっとこの程度の事では、動じないなりの経験を積んで来ているのだろう。まあ、頼もしい限りの話ではあるのだが...... 「とにかくベッドに運んで」 八雲は杖を突きながら、ゆっくりと二人を奥のベッドに誘導した。本人が言うように、右足は本当に義足なのだろう。実にぎこちない歩き方だ。 ゼェ、ゼェ、ゼェ...... ゼェ、ゼェ、ゼェ...... 時間を追う毎に、呼吸は確実に苦しさを増していった。見ている方が逆に苦しくなるくらいだ。実に痛々しい。 『牧子』がベッドに寝かされると、八雲は矢継ぎ早に診療を開始する。 血圧、心電図、採血...... あらゆる検査が立て続けに行われていった。 迅速且つ正確なその動きは、到底『村のお医者さん』レベルでは無かった。 それ以上に驚きなのがベッドを取り囲む医療機器だ。 全てが最先端を行く物ばかりであり、都心の大学病院のそれと比較しても、決して見劣りするような代物では無かった。 建物がレトロなだけに、そのギャップが更にそれらの機器を近代的に見せているのかも知れない。 この様子を目の当たりにしたら、誰しもが『この八雲なる医師は何者なんだ?』と首を傾げる事だろう。
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