第二十一章 Dr.八雲 

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やがて一通りの検査を終えると、八雲は額に浮かんだ汗を拭いながら勝也に語った。 「これはアナフィラキシーショックだ。ちょっと危険な状態だが、まぁ、何とかなるでしょう......羽黒さんは待ち合い室で待ってて下さい」 『牧子』の身体にはそれまで無かった赤い発疹が現れ始めている。それは正にアナフィラキシーショックの典型的症状だ。 「アナフィラキシーショック? それって......」 勝也は不安の色を隠し切れない。『牧子』の病状は、時間の経過と共に悪化の徒を辿っている。 『死』......そんな言葉が頭を過って仕方が無い。 「彼女はアレルギー体質です。お二人にとっては無害な食品でも『牧子』さんにとっては毒となるものがあるんです。因みに今日の夕食は何でしたか?」 「エビです。エビフライです。それ以外はけんちん汁と、キャベツと......」 「もう解りました。結構です......それでは一旦退室をお願いします」 八雲は勝也の言葉を途中で遮り、退室を即した。 「はい......宜しくお願いします」 勝也はそう告げると、後ろ髪引かれる思いで診察室を後にしていった。 またエビフライか...... 記憶が飛んでる訳だから、本当に知らずに食ったんだろうな...... おっと、血圧が低下し始めやがった。 ほれっ、酸素マスクっと...... それから次はエピネフリン投与! 八雲の身体はまるでスイッチが入ったかのように、突然目まぐるしく動き始める。
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