第二十一章 Dr.八雲 

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ガチャ、ギー。 診療室の扉が静かに開放を見せる。 「せっ、先生! 牧子は? 牧子は?!」 勝也は大地の顔を見るや否や思わず立ち上がり、彼の元に詰め寄った。予想通りの反応だ。居ても立ってもいられなかったのだろう。 このような時人間の脳は、悪い方へ悪い方へと考えてしまう。きっと勝也の脳も待っている間、そんな思考に支配されていたに違い無い。 「峠は越えました。安心して頂いて結構でしょう。今はもう落ち着いてすっかり眠っています。まあ、勝也さんもお茶でも飲んで、少しゆっくりして下さい。もう大丈夫ですから」 そう言いながら、大地は手に持っていた茶のペットボトルを勝也に差し出した。 全く......あのじゃじゃ馬がアレルギーごときで死ぬ訳ねぇだろう。鉛の弾撃ち込んだって、焼印押したって一歩も退かない魂だぞ。 こいつ......本気であの女の旦那になったつもりでいるのか? お前なんかに手に負える訳ねぇじゃん。役者違いも甚だしい。全くお目出度い奴だ...... 八雲医師の表情は実に穏やか。微笑みすら浮かべている。その発言に偽りは無いのだろう。 「おお、八雲先生......有り難うございます! 良かった......本当に良かった」 一方勝也の方はと言うと、感極まった表情を浮かべている。勝也の頭の中ではすでに、『牧子』は100パーセント妻の牧子に成り変わっていたのかも知れない。 きっとそれだけ突然現れた『牧子』に魅力があったと言う事なのだろう。まぁエマな訳だから、当たり前て言えば当たり前の事なのだが......
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