第二十一章 Dr.八雲 

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そんな子供のような喜びを披露する勝也に対し、大地は更に煽りを加える。 「きっと勝也さんの愛が、神に届いたのでしょう。『牧子』さんも、貴方が側に居たから回復に向かったんだと思いますよ」 「そうでしょう、そうでしょう......」 勝也は目に溜まった涙を袖で拭いぬがら、ペットボトルのキャップを開けた。 そしてペットボトルの中の液体を、何の疑いも無く喉の奥へと送り込んでいく。 トクトクトク...... トクトクトク...... 余程喉が渇いていたのだろう。それはほぼ一気飲みに近かった。 フッ、フッ、フッ...... フッ、フッ、フッ...... 大地は隠す事もせず、あからさまに勝也の正面で不敵な笑みを浮かべていた。 すでに大地の顔からは、親切な村医師『八雲』の面影は完全に消え失せている。 これが本当に同じ人間? それは同じ顔であって同じ顔では無かった。 ここまで人間は変われるものなのかと感心する程だ。 そんな大地の変化に勝也は気付く訳も無い。ペットボトルの液体を全て飲み干すと、何も知らずに爽やかな笑顔を浮かべている。ある意味お目出度いとしか言いようが無い。 「いやぁ、ほんと生き返りました。実は喉がカラカラだったんです。なんか『牧子』が無事だと解ると、力が......抜けて......来ちゃって......あれ......」 何だか解らないが、突然足の力が抜けていく。気付けば、足の感覚は全く無くなっていた。 そして、 バタッ! ペットボトルを飲み干した直後だった。勝也は見事に床へ転げ落ちた。そして微動だに動かない。
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