第二十一章 Dr.八雲 

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大地は火が灯されたライターを、うつ伏せに倒れ込む勝也の衣服に躊躇無く当てた。 衣服には、可燃性である『ベンジン』が大量に染み込まされている。そんな所に火を当てたら一体どうなるのか? 考える間も無く、答えはすぐに現れた。 ブゥウォー.......! バチバチバチ......! 勝也の身体が一気に燃え上がる。 「ハッ、ハッ、ハッ、暖かいだろう! 楽しいなぁ、おい!」 大地はその様を見た途端、突如腹を抱えて笑い出し始めた。一体何がそんなに可笑しいと言うのだ? 今、目の前で燃えている物体は、決して暖炉の薪で無ければ、キャンプファイヤーでも無い。まだ魂が宿る人間の身体だ。 人がこの世に生まれて来る事には必ず意味が有る。人はそれぞれ、神から使命を受けてこの世に誕生する。 人はその使命を運命と呼び、何人(なにびと)もその運命に逆らう事は出来無い。 太平洋の大海原で、1度は天寿を終えたように思われた大地。しかしこの悪魔たる者は、再びこの地に現れ、毒を撒き散らしている。 果たしてこの悪魔が蘇った事にも、意味は有るのだろうか...... そして......勝也。 『牧子』を『エマ』に戻すと言うだけの理由で、自身の『天寿』を終える事に意味は有るのだろうか...... もし本当に『神』が存在するのであれば、是非ともその答えを聞かせて欲しいものだ。 『神』は時には惨い仕打ちをする......そんな事を象徴するかのような惨劇の始まりだった。
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