第二十一章 Dr.八雲 

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「うわあー!」 例え中身はエマであっても、この衝撃的な映像をまともに見てしまっては、ショックを隠し切れない。 燃え盛る勝也の姿に思わず腰が引け、天にも昇る雄叫びを上げた。 「牧子......燃えてる.....」 その者は両手を前にかざし、いよいよ自分にもたれ掛かろうとしていた。 「『牧子』って......もしかして、あなた勝也さんなの?!」 「『牧子』! 『牧子』!」 この声は間違い無い。勝也だった。 ダメだ......このままでは自分も炎に包まれてしまう。 『牧子』は寸前の所で体を翻し、炎上する勝也の身体をかわした。 「う、う、う、う、う......」 やがて勝也は奇妙な声を上げながら、勢い余ってベッドの上に倒れ込んだ。 息つく間も無く炎は激しい音を立ち上げながら、ベッドを丸飲みし、カーテン、そして天井へとその勢力を広げていった。 今、『牧子』の目に3Dで映し出されている映像...... それは決して映画では無く、リアルタイムに起きている現実だ。『牧子』はまるで幻を見ているような錯覚に囚われていた。 耐え難い焦げ臭が『牧子』の鼻を刺激する。 人間が焦げると、こんな嫌な臭いがするんだ...... バチバチッ! バチバチッ! 肉を酸化させる耳障りな音が鼓膜を刺激する。 人間が焼けると、こんな音がするんだ...... 『牧子』は、焦げ果てていく勝也の身体の前でフリーズし、気付けば呆然と立ち尽くしていた。 心ここに有らず...... そんな表情を浮かべている。 『牧子』の魂は、余りの衝撃にどこか遠くへ吹き飛ばされてしまったのだろうか。 気付けば『牧子』の目は虚ろになっていた。 『脱け殻』......そんな表現が実に的を得ている。
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