第二十一章 Dr.八雲 

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診療所に近付くにつれ、オレンジ色の光はどんどんその明るさを増していく。それは火災の大きさを物語っていた。 逃げ遅れた者が居る...... 隣のご主人の口から発せられたその言葉が、どうしても頭から離れない。 そんな話聞きたく無い!  心の中ではきっとそのように叫んでいた事だろう。 火の粉が縦横無尽に舞う中、やがて車のフロントウィンドウは、火柱立ち上がる診療所を映し始めていた。 どうやら大勢の村人が周囲を取り囲んでいるようだ。その向こう側では、消防団が消火活動を行っている姿が見えた。 緊迫した空気が、車の中に居てもひしひしと伝わってくる。 キー。 母を乗せた車は、耳障りなブレーキ音を立ち上げながら、人だかりの手前で停止した。 車の到来に気付いた村民達は、皆揃って振り返る。 「あ、羽黒の母さんだ......」 「ああ、来ちゃったようだな......」 母の姿が視界に入った途端、次の瞬間には一斉に目を逸らす村人衆。 母の不安が的中するその時が、今刻々と迫っている事を予感せざるを得ない村民衆の反応だった。 「勝也はどこ? 勝也はどこに居るの?!」 車の助手席から飛び降りた母は、群衆を掻き分けながら、一気に燃え盛る『診療所』へと駆け寄って行った。 「ダメです。ここから先は危険です。近寄らないで下さい!」 診療所の手前凡そ20メートルの地点で消防団員が立ちはだかる。 建物は完全にその全てが炎に包まれ、いつ倒壊してもおかしく無い状況。これ以上近付くのは確かに危険だった。
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