第二十一章 Dr.八雲 

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「なんと! 羽黒の親子は、記憶が無いのをいい事に、お頭様を嫁だと信じ込ませていたのか?!」 「羽黒の息子は死んで当たり前だ! きっと『祠の神様』の怒りに触れたんだ! あの母親もきっとお頭様と知ってて騙してたに違い無い。あいつを取り押さえろ! 八つ裂きにしてしまえ!」 この時点で羽黒の母だけを悪者にしておかないと、いつ自分らに火の粉が掛かってくるか解ったものでは無い。 村人衆の頭の中には、自己を守る為のそんな緻密な計算があった事は否めなかった。 群衆のボルテージは一気に急上昇していく。皆、勇み足で泣き崩れる勝也の母の元へと集まって行った。 そんなただ事ならぬ殺伐とした空気に、エマがすかず反応する。 「おい、村人達は一体何を怒ってるんだ? 何か八つ裂きにするとか言ってたぞ」 エマは血相を変えて二人に問い掛けた。 やがて『赤』が視線を落とし、その問いに対し口を開いた。 「『頭』は土砂崩れの後、『羽黒家』の親子に救出され、手当てを受けました。 そこまでは良かったのですが、『頭』の記憶が無くなっているのをいい事に、『頭』を羽黒家の嫁だと騙し、家に居すわらせようとしたんです。 私は『頭』の顔写真を持って、一度羽黒家を訪ねていますから、その女性が『頭』である事を知らない訳が有りません。 『富士国』において、アマゾネスにそのような騙し行為を行う事は厳罰に値します。八つ裂きも致し方有りません。さぁ、お車の準備が出来ました。行きましょう」 『赤』は為す術無し......そんな諦めの表情を浮かべながら、エマに乗車を即した。
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