第二十一章 Dr.八雲 

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「息子を亡くしたばかりの老人に、寄ってたかってあんたらは一体何をしようとしてるんだい? 誇り高き『富士国』の民が聞いて呆れるよ。全く!」 ざわめく群衆の中、突然そう豪語した者が居た。その物言いはまるで落雷の如く、聞く者を見事に痺れさせた。 万人が母に向かって親指を下へ向ける中、一人堂々と親指を上へ向けれる者など、この世にはたった一人しか居ない。 村人衆が狼狽える中、その者は更に言葉を続けた。 「羽黒家の二人があたしを騙したんじゃ無い。あたしが二人を騙してたんだ。何だかアマゾネスの仕事も疲れちまってね。嫌になっちまったんだよ。 あたしがアマゾネスの『頭』である事を隠して、由緒ある『羽黒家』の嫁になりたいと頼んだ。記憶喪失になった振りをしてね。それが事実だ。 だから殺すのはこの人じゃなくてあたしだ。さぁ、おっさん。そのごっつい鉄パイプでこの頭を思いっきり殴れ。それでこの話はご破算だ。いいな。解ったら早くやれ」 そう叫びながら、これでもかと言わんばかりに頭を投げ出す女性...... それは『赤』と『黄』の制止を振り切り、今、ここに舞い戻って来たばかりのエマだった。 エマの繰り出す強烈な威圧感が、すでにご主人はおろか、取り囲む村人衆全てを圧巻していた。 この時点において、もはやエマの言が真実であろうか無かろうかなどは関係無い。鉄パイプをエマの頭に降り下ろせる者など、居る訳も無かった。 気付けば、すでにご主人は威に圧倒され、尻餅を着いている。鉄パイプは明後日の方向に投げ出されていた。見るからに情けない。 一般人が何人集まったところで、エマ一人に敵う訳も無かった。
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