第二十一章 Dr.八雲 

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『祠の村』 『富士国』のほぼ中央に位置するこの村は、決して裕福では無かった。 そんな中、代々この貧乏な村の村長を継承する『羽黒家』だけは例外だったと言えよう。 村を全て見渡せる小高い丘の上に大邸宅を構え、毎日豪華な食事を喰らい、近距離であってもこれ見よがしに高級車を乗り回す。 しかし空気を読めない人間は、とことん空気が読めない。 人には誰しも『妬み』と言う感情を持っている事など考えた事すら無かった。 貧乏な村民に対しては、何の担保も取らずに金を貸し与えていた『羽黒家』 本来で有れば、善人と称されるべきその善行すら、この村人達からは『金持ちのおごり』と陰口を叩かれてしまう。 そんな『羽黒家』に対し、村民は今まで内に秘めた憎悪感を圧し殺していたと言うのが現実だ。 羽黒家の母が先程窮地に追い込まれた時、村民は誰一人助けようともせず、一気に『処刑』へと向かった理由は、そんな根深い憎悪感情の現れだったと言える。 もしエマが何も知らずにそのままこの場を立ち去っていたなら、村民達は大義名分の元、躊躇無く母を痛ぶり殺していた事だろう。 人はちょっとしたきっかけで『神』にも『悪魔』にも成りうる。そんな事を思い知らされたような一幕だった。 実に恐ろしい話ではあるが......
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