第二十一章 Dr.八雲 

44/48

367人が本棚に入れています
本棚に追加
/1040ページ
「勝也さんは『待合室』で、全身火だるまとなり視力を失いました。恐らくその時点で『待合室』は火の海となっていた事でしょう......」 母は何も語らず、静かに『娘』の言葉に耳を傾けていた。 「『待合室』の扉からすぐに外へ出れば、もしかしたら勝也さんは、命を取り留めていたかも知れません......」 ザー...... 耳を澄ませば、今も川のせせらぎが聞こえて来る。 『祠の滝』から流れ落ちた水は、川となり診療所のすぐ横を通っている。診療所から10メートルと離れてはいない。 「『待合室』から一歩外へ出てしまえば、そのすぐ横には川が流れています。 川に身を投げれば、直ぐに火は消えます。水で火を消せる事くらい、子供でも知っている事です。 勝也さんは何度もこの『診療所』へは足を運んでいますから、すぐ横に川が流れている事を知らない訳がありません。 それに外へ出れば、誰かに助けを求める事も出来た可能性があります。 なのに勝也さんはそうしなかった。 お母さん......なぜだか解りますか?」 勝也の最期をこの人に語れるのは、その場に居合わせた自分だけ...... 見た事、感じた事をそのままこの人に伝えてあげよう......それが唯一、今私がこの人にしてあげれる事。 真実を語る『牧子』の目に曇りは無かった。
/1040ページ

最初のコメントを投稿しよう!

367人が本棚に入れています
本棚に追加