第二十一章 Dr.八雲 

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薬で眠る『牧子』を起こさなければ! このままでは、折角戻って来てくれた『牧子』を再び死なせてしまう...... 神様、自分の命は差し上げます。でもどうか、どうか、私の愛する妻の命だけはお助け下さい...... 目を瞑れば、あの時、炎に包まれた勝也の顔はそんな言葉を叫んでいたような気がする。 「そんな彼の気持ちも考えず、私はまるで化け物でも見るような目で彼に視線を送っていました。 更に心の中では『やだっ、こっち来ないで! あっち行って!』そんな風に勝也さんの事を罵ってもいました。 私は最低の『女』、それに対し勝也さんは最高の『男』を演じてくれました。それが勝也さんの最期の姿です。 どうかそんな勝也さんを誇りに思ってあげて下さい。それが『牧子』としてあなたに語る最後の望みです」 気付けばエマは、母の手を両手でしっかりと握っていた。 母の目から流れる涙は枯れる事を知らなかった。その涙は、頬を伝いエマの手の甲へと流れ落ちていく。 「あんたは本当に立派なお人じゃ......ほんの少しじゃったが、あんたと夫婦の時を過ごせた勝也は果報者。 あんたのエビフライを食べてる時の勝也の嬉しそうな顔をあたしは一生忘れられんよ。 有り難う......本当に有り難う......」
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