第二十五章 絶望への道程

17/52
前へ
/1040ページ
次へ
「な、なんで?!」 突如、現世に舞い戻った圭一の顔に血の気は無かった。ただその者の顔を、呆然と見詰める事しか出来ない。 やがてその者は、赤く腫れ上がった頬を歪めながら、床に落ちたメガネを摘まみ上げる。そしてゆっくりと口を開いた。 「私達は常に戦い続けている。命が狙われれば、敵を殺める事もあるでしょう。 しかし......無抵抗な人間を殺める事は、私達の仕事じゃない。 圭一さん......今のあなたは探偵として失格です」 素早く2人の間に割って入った者...... それは他でも無い。 美緒だった。 人間は誰でも過ちを犯す。それは万人に言える事。 しかし、取り返しのつく過ちも有れば、つかない過ちも有る。 如何なる理由が有ろうとも、無抵抗な人間を殺めればそれは『殺人』であり、犯罪者のレッテルを貼られる事となる。 美緒は圭一にそんなレッテルを貼らせたくは無かった。そんな強い気持ちが美緒の身体をつき動かしたに違いない。 美緒は口から流れる血を拭うと、ゆっくりと立ち上がった。 「美緒さん......俺......」 「さぁ、行きましょう。ももが待っています」 圭一の言葉を遮る美緒。 そして何事も無かったかのように歩き始める。
/1040ページ

最初のコメントを投稿しよう!

366人が本棚に入れています
本棚に追加