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「いんやぁ、朝食の時、奥さんいらっしゃらなかったから、今頃お腹空いてんじゃないかと思って」
見れば中居の手には握り飯。
中々の気配りだ。リピーターが多いのも頷ける。
「これはお心遣い有り難うございます。おお、もう10時じゃないか。
未来、折角中居さんが握り飯作って来てくれたんだ。お前、麗子さん起こして握り飯あげて来い」
「えー、俺が? どうもあの人苦手なんだよな......」
露骨に嫌な表情を浮かべる未来。よっぽど関わるのが嫌なのだろう。
「いいから早く起こして来いって!」
そんな未来に対し、マスターはちょっと苛つき顔。語調が荒い。
「へいへい......」
命を守られている身だけに、わがままばかりも言ってられない。未来は重い腰を上げると、覚悟を決め中居から握り飯を受け取った。
うわぁ、中居さんの手凄い綺麗だ......
って言うか、指長くない?......
「それではこれで」
中居は未来に握り飯を手渡すと、そそくさと階段を降りて、そのまま旅館の外へと出て行った。
人気旅館だけあって、買い物やら何やで何かと忙しいのだろう。心遣いは嬉しいが、逆に申し訳無い気持ちになってしまう。
やがて未来は廊下を挟み、向かいの部屋の扉をノックした。麗子の個室だ。
トントン。
「......」 返事は無い。
もう1度、
トントン。
「......」 やはり返事は無い。
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