第二十五章 絶望への道程

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「グワァ、溺れる!」 「美緒さん大丈夫か?!」 「あたしは大丈夫」 溺れているのか、泳いでいるのか、殆ど区別がつかないような哀れな犬かきを披露する大作。 決して金槌と言う訳では無いが、重い万能リュックを背負い、沈没寸前のタイタニック号を演じる圭一。 万能リュックを背負ったまま、イルカの如く魚を追い抜いて行く美緒。 アップアップしながら、必死に美緒の背中を追い掛ける男性陣だった。 この地底湖、決して遠浅と言う訳では無かった。溺れ掛けている二人にとっては正に試練と言えた。 やがて3人は時間差ではあるが、何とか順に陸へと這い上がって行った。 死んでたまるか!  そんな意地の賜物と言えよう。 「取り敢えずは、一旦落ち着きましょう。ほら頑張って!」 息絶え絶えな二人を、クールな表情で鼓舞する美緒。 この差は一体何なのだろうか?...... 因みに美緒は、スキューバダイビングのライセンス保有者で、海の中でも陸と同じ生活が出来るらしい。まぁ、本人が勝手にそう言っているだけではあるが。 幾分落ち着きを取り戻した3人は、石だらけの地面を歩き、大きな岩の影に身を落ち着ける。 本来であれば、暗黙の世界たる地底洞窟の中ではあるが、幸いにも要塞とも言える建物群から漏れる灯りのお陰で、辛うじて3人の視界を保ち得ていた。 「どうやら敵は追って来ないようだな」 圭一は肩で息をしながらも、安堵の表情を浮かべている。 「普通に考えれば、追って来るんじゃないかしら? 追って来ないとしたら、それなりの理由が有るからだと思う」 美緒は精密機械の如く思考を巡らせたる。 「例えば?」 大作が目を細めた。 「もしかして......博士が言ってた事か?」 圭一は、死ぬ前に博士が言っていた『あいつ』の事を思い出した。 『あいつと戦う位なら、守護兵と戦った方がましだ』 それは死ぬ前に博士が言い残した遺言とも言えた。 『あいつ』って何なんだ? 人なのか? 動物なのか? それとも自然の驚異を言っているのか? 博士は既に死んでしまっている以上、知るよしも無かった。
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