第二十六章 サバイバル

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1月の末ともなれば、それは正に厳寒の季節。 富士山の麓に広がるこの樹海も、水墨画と見紛う程の美しい銀世界を作り出していた。 そんな小雪舞う真冬の樹海...... しかし、一歩地底へと潜ってしまえば、そこは正に地上と隔離された別世界。 寒気が遮断された『マンタ洞察』は、じっとしていても汗ばむような気候だ。 圭一の額から流れ落ちる脂汗は、そんな気候からくるものなのか? それとも極度の緊張からくるものなのか? 答えは明らかに、その後者だった。 「よし......それじゃあ行くぞ。援護射撃を頼むぜ」 圭一は丘の最上部から振り返り、美緒に笑顔を見せた。 その笑顔には『さようなら』......そんな言葉が隠されていたのかも知れない。 圭一がこれから行おうとしているミッションは、『失敗』イコール『死』を意味する。 また圭一が失敗すれば、次には美緒の『死』が待ち受けている。 美緒は既に心を決めていた。 圭一が人間ウェポン達に葬られてしまえば、次に餌食となるのは当然自分とこの大地だ。 銃弾すら避けて走るこの者達の攻撃を、残念ながら防ぐ術は無い。 辱しめを受ける位なら、その前に自らの命を絶つ。 美緒はそんな覚悟を既に決めていた。
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