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すると店内こそは暗がりとも言えたが、カウンターの内側だけは一定の照度が保たれている。
一人の初老が仕込みをしているようだ。多分バーテンダーなのだろう。
「すみません、まだ準備中ですよね」
「え、ああ......大丈夫です。簡単なものなら作れますよ。さあ、どうぞ」
「有り難う」
初老のバーテンダーは蝶ネクタイ姿。熟年の怪しいオーラが滲み出ている。
こんな山奥には似合わない実に都会的な雰囲気が醸し出されていた。
そんなバーテンダーは、5人が店内に入ってくると、すぐに照明のスイッチをON。
途端に店内がオレンジ色に染まる。
暗がりでは気付かなかったが、見渡して見れば実に洒落た店だ。全体的に木目調で統一され、実にアダルトな雰囲気が漂っている。
とても山奥の温泉宿の中とは思えないその嗜好は、恐らくオーナーの趣味なのであろう。
やがて5人は、導かれるようにしてカウンター席に腰掛けた。
奥から恵麻、赤、青、緑、紫。そんな席順だ。
「皆様湯上がりのご様子。宿自慢の名湯は如何がでしたか?」
バーテンダーは洗ったばかりのグラスを丁寧に拭きながら、にこやかに問い掛けた。
「気持ち良かったよ!」
真っ先に答えたのは他でも無い。恵麻だった。
「あなたのようなお美しいレディーにお誉めの言葉を賜った湯に私は嫉妬してしまいます」
「あたしレディーなの?」
隣の『赤』に嬉しそうな表情で問い掛ける恵麻。
「勿論よ」
にこやかに答える『赤』だった。
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