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「ちょっとあなた......どうしたの?」
マイクで音を拾われぬよう、麗子は小声で問いかけた。
そう語った麗子も、目の前に立つ青年の異変に気付き、全身に緊張が走っていた。
それまで向日葵のような笑顔を絶やさなかった麗子の顔が俄に曇る。
「自分......には・ ・ ・ ・ ・! うわぁ!!!」
青年は何かモゴモゴと口を動かした後、突然物凄い形相で雄叫びを上げた。
そして大きな花束を悪役レスラー擬きに投げ飛ばし、壇上から場外乱闘のごとく飛び降りると、障害物をもろともせず一目散に走り出した。
もしかしてこれは何かの演出?
それはゲスト逹がそんな妄想を抱く程の派手な振舞いだった。
しかし場を白けさせる演出を、主催者側が企てる訳もない。
やがて制御不能の弾丸と化した青年の体は、テーブルを倒し、ゲストを突飛ばしながら、会場の外へ向かって突き進んでいく。
テーブル上に置かれていたワイングラス、一輪挿しなどあらゆる物が倒れ、激しい音を立ち上げながら四方に飛び散った。
「ちょっとお前何だ!」
「痛い! 突き飛ばさないでよ!」
今日の為に誂えた一張羅を、倒れたワインで汚されたゲストが怒りの声を上げる。
一方、そんな罵声の中を走り抜ける青年の顔は、まるで何かに取り憑かれたかのように歪んでいた。
「うわぁ!!!」
会場を去った後も、なお叫び声は響き渡り続けている。
「なっ、何なんだあいつは!」
ゲスト達は、余りに唐突な青年の猟奇的とも言える行動を目の当たりにし、大混乱となっていた。
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