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「おやすみィ」
そう言って僕は意識を手離そうとした。
「寝るなァ!」
怒鳴り声と共にビンタが飛んできた。
衝撃と痛みで意識が引き戻される。
「この状況で寝るか普通!? 何考えてんだお前は!」
「いや、僕はもう考えるのを放棄した。あとは頼む」
「ふざけんなァーーーー!」
いやだってさ。
この状況をどう切り抜けろと?
状況。
状況の把握なら僕だって出来てる。
夜。とっぷりと日が暮れてーー暮れまくって深夜に程近い時間帯に、あるものを持たされ指示された場所に行かされた。そこで、日付が変わるのを腕時計で確認してすぐに、『それ』は現れた。
百鬼夜行。
妖怪の群れが列を成したあれだ。
行列には色んな“モノ”がいた。
鳥みたいなモノ、火みたいなモノ、虫みたいなモノ、よく分からないモノ。そんな“モノ”達がわらわらと暗闇から涌き出るように溢れだし、くんずほぐれずと住宅地の道を躍り歩き出した。それらは何かの音頭を取っているように見えたが、僕たちの耳に聞こえる音はない。だが、確かに踊っているのだった。
そして、それらを視覚で認めた数秒で。
ーーーーまずい。
そう思った。
本能がアレはダメだと警告した。
だから、距離のあるうちにと、その場から離れて小路に入り、通りから見えないように奥に入り、身を潜めた。
無音だが、アレが近づいてくるのがわかり、緊張の糸が張りつめていく。至近距離でアレの気配を感じ、次には小路からアレらの姿が見えた。そうして通りすぎるのを待とうと緊張がピークに達したとき。
ヴヴヴヴヴ ヴヴヴヴヴ ヴヴヴヴヴ
スマホが震え、屈んでいた僕のポケットから落ち、硬質な音を立てた。
心臓が跳ね上がり、電気が走るように全身に緊張が駆けた。それと同時にーー
ぞわり
寒気が襲ってきた。
そして、アレらと目が合った。
瞬間的に僕ら二人は小路から通りに引きずり出されーー囲まれた。
そうして出来上がったピンチが、今の状況(絶体絶命)だ。
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