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「…そんな、怒鳴らなくった…って」
受験で母さんに八つ当たりした以来、こんなに声を荒げることなんてなかった。
唇を噛み締めて、小刻みに震えている灯に、罪悪感が波のように襲いかかってきた。
「何よっ、…こんな…こんな消しゴムで…っ」
「ごめん…」
他の人からしたら、ただの消しゴムかもしれないけど。
俺にとっては、何よりも大切なんだよ。
そんな事を人形みたいな大きい瞳から、ボロボロと涙粒を零す彼女に言えるはずもない。
最低な事をしてしまった事実に打ちひしがられていると、ドア前で待っていてくれた亮介がやって来た。
「奏人も悪いけど先に怒らせた島崎さんも悪いから、イーブンだよ」
泣いてる灯が握る消しゴムを、いきなりひょいっと抜き取って。
唖然とした灯に構うことなく、机に置いていた俺の鞄を手に取り、肩にかけた。
「…なに、それ」
「奏人がそんなに謝る必要はないってこと。…ほら、もう遅れんぞ」
空いた口が塞がらない灯に構うことなく、呆気に取られた俺の腕を引っ張って教室を連れ出してくれた。
俺が女なら、確実に惚れてる。
初めてそう思うくらい、亮介がかっこよく見えた。
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