変わらない道標

11/34
前へ
/34ページ
次へ
代わりに背負ってくれた鞄を下ろすと、亮介は立ち止まり、ふぅと大きな息を吐いた。 「お前、何も言わなさ過ぎだろ」 「いや、でも泣かせたし…」 物心がついた頃から、"女に手を出す男はゴキブリ以下、泣かす男はゴミ屑同然"と家の女帝たちに叩き込まれていた。 きっとこの話は彼女達の耳に入るに違いない。 ああ…考えただけで頭が痛い…。 「ああいう奴は図に乗るだけだから」 「なんだそれ…?」 「とりあえず、これ」 俺の問いに答えず、亮介は呆れた様子で消しゴムを渡してくれた。 手にした瞬間、力が抜けて、思わず安堵の息をはいた。 「…マジでありがと」 「帰り、奢りな」 亮介は二カッと笑ったきり、消しゴムについて何も聞いてこなかった。 俺なら聞いてしまうのにと思いつつ、彼の対応に感謝した。 もちろん帰りは、彼の好物である鮭のおにぎりとお茶を買ってあげた。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

52人が本棚に入れています
本棚に追加