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代わりに背負ってくれた鞄を下ろすと、亮介は立ち止まり、ふぅと大きな息を吐いた。
「お前、何も言わなさ過ぎだろ」
「いや、でも泣かせたし…」
物心がついた頃から、"女に手を出す男はゴキブリ以下、泣かす男はゴミ屑同然"と家の女帝たちに叩き込まれていた。
きっとこの話は彼女達の耳に入るに違いない。
ああ…考えただけで頭が痛い…。
「ああいう奴は図に乗るだけだから」
「なんだそれ…?」
「とりあえず、これ」
俺の問いに答えず、亮介は呆れた様子で消しゴムを渡してくれた。
手にした瞬間、力が抜けて、思わず安堵の息をはいた。
「…マジでありがと」
「帰り、奢りな」
亮介は二カッと笑ったきり、消しゴムについて何も聞いてこなかった。
俺なら聞いてしまうのにと思いつつ、彼の対応に感謝した。
もちろん帰りは、彼の好物である鮭のおにぎりとお茶を買ってあげた。
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