変わらない道標

15/34
前へ
/34ページ
次へ
『しずー』 『はいっ』 勝手に脳内で再生される声。 実は、皆にからかわれるよりも酷なことがある。 それは本人を思い出して、無意識に比べてしまうことだ。 しずの方が、声が細いな、とか。 しずの方が、肌が白いな、とか。 しずの方が、目が大きいな、とか。 可愛いと男バスと男バレから密かな人気を誇っている静ちゃん。 小柄で確かに小動物みたいな可愛らしい子ではあるが、しずに優るところなんか一つも見つからない。 でもそんな事を思う行為自体が、自身で傷口をえぐっているも同然で。 …もう本人の声すら忘れかけているというのに、本当何をしてるんだか。 「ああー…」 椅子に踏ん反り返り、少しでも発散しようと発声練習のように唸り出す。 マジで会いたい。 ああ、もう本気で限界なんだって。 蓄積された欲が、はち切れそう。 どれほど経てば、ストーカーの時効が消えるのだろう。 いつまで我慢したら、会いに行くことを許されるのだろう。 毎日その事しか考えてない。 でも無表情の事を思い出すと気がそがれて、また胸の奥が疼く、を繰り返していた。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

52人が本棚に入れています
本棚に追加