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そんな俺を神様は同情してくれたのかもしれない。
梅雨真っ只中の6月10日、火曜日の晩。
その思いがけない話は、本当に突然舞い降りて来てくれた。
「え…?美咲ん家に?」
「そうなの。前からお誘いがあったんだけど、なかなか日にちが合わなくてね。延びに延びちゃったけど、どう?塾もないし、明日、優香と一緒に行かない?」
「美咲って、…伊藤 美咲だよな?楠紅に住んでる伊藤 美咲のことだよな?」
「そうよ、その美咲ちゃんよ」
信じられない俺に、母さんは何度も宥めるように答えてくれる。
まるでバカな子を見るような眼差しに、胸の中は瞬く間に嬉しさで満ちていく。
喜びのあまり、母さんを目の前に思いっきり破顔してしまったのは、恥ずかしいけれど。
ちゃんとした名目でしずに会いに行けると思ったら、やっぱりニヤけて仕方がなかった。
『のりちゃんは本当に優しいよねぇ』
『だって…見てられないじゃない』
『まぁ、ずっと生きた死人みたいだったもんね…』
『あんな嬉しそうにしちゃって…本当健気過ぎるわよ…』
リビングで優香と母さんがテレビを見ながら、自分を憐れんでいたことなんて想像もしていない俺はかなり舞い上がってた。
舞い上がりすぎて、夜中までぶっ通しで勉強して、…寝坊しかけた。
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