変わらない道標

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あの期末テストは、クラスで一番いい点数を取った。 夏休みは練習に試合と充実してたし、文化祭や体育祭もすごく盛り上がった。 学校の成績も塾での勉強も行き詰まることなく、順調に進んでた。 でも全然、…楽しく感じなかった。 何かが物足りないのは、分かっていたけれど。 それに向き合う術を知らない俺はただ目先にある、"やらなければいけない事"をこなして行くだけだった。 「ぶえっくしゅっ!」 本日何度目なのかなんて数え切れなくなった、海斗の清々しいまでの盛大なくしゃみ。 鼻水をすすりながら、すぐに鞄からいつものティッシュボックスを取り出して。 トナカイみたいな赤い鼻をまた、思いっきりかむ姿が若干痛々しい。 「で、今日なんで遅れてきたんだっ?まさかまた告白?」 「ああ…うん」 鞄の中に身を潜める円筒状の小さいゴミ箱に使用済みティッシュを捨てた海斗の鼻を見て、笑いそうになった。 目は腫れてるし、鼻は赤いし、典型的な花粉症って顔。 「恋の季節にしても、みんな盛り過ぎっつーの!」 「お前は病気の季節だもんな」 「病気じゃねーし!花粉症なだけだし!」 嘲笑する亮介に、吠える海斗の会話を聞こえてくる中、微かな花びらを残した桜の木を仰ぎ見た。 軟らかそうな若葉たちが春風に揺られてる。 微動する隙間から差し込む夕陽は、あの日を思い起こさせる。 『早くっ!赤になっちゃうよっ』 『ゆっちん、待ってっ。鞄重たいんだよー』 入学式から、一年。 俺は2年生に上がっていた。
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