52人が本棚に入れています
本棚に追加
「降りそうだな」
「どばっと降っちゃって~花粉もろとも流して~」
鮭のおにぎりを咀嚼しながら、空を見上げていた亮介。
最近流行っている曲を替え歌で唄っている海斗は、また鼻水が出てきたのかクリームパンを膝に置いて鞄を弄り始めた。
確かにどんよりと濁っていて、鼠色の大きな雲々に覆われていた。
『…うわー、これ雨降りそう』
『雲、鼠色してるもんね』
遠い昔の記憶を遡らなくても、自ずと響いてくる懐かしい声。
じんわりと胸に広がる甘い痛みを、どれほど味わったのだろう。
「どしたの?」
「え?」
「いや、ため息。また出てた」
「…マジか」
潤んだ瞳で呆れながら指摘されたのは、最近頻繁にしてしまう、無自覚な行為。
不味いジュースを再び口に運び、また一つついてしまっていた。
「おっ!」
突然、表情をパァっと明るくさせた海斗はそそくさにポケットからケータイを取り出して。
画面を見るなり、だらしない笑いを浮かべる。
「愛理ちゃんがさ、今日」
「はい、黙れ」
「なんで!モテない男の惚気くらい聞いてくれたっていいじゃん!」
新学期早々、同じクラスの子とメールを始めた海斗。
俺と亮介は一組、海斗だけが五組。
教室が離れているため、愛理ちゃんがどんな子なのかも知らないが、とにかく可愛いだのいい感じだのと騒いでる。
最初のコメントを投稿しよう!