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「マジでありが…」
急いで取り返そうと手を伸ばすが、さらりと交わされて、宙を切る形になった。
おもむろに立ち上がった灯は、吟味するようにそれを眺めてる。
「なに、これ?」
少し首を傾げて、新しいおもちゃを見つけた子供のような目をしている。
解釈する必要なんて更々ない俺は奪い返そうとするが、一歩下がった彼女のせいでまた空振ってしまう。
「早く返せ」
何に対しての焦りなのか、自分でも分からない。
ただ驚くほどの怒りが沸き立って、他の奴に触れられていることに激しい拒否感を覚えた。
「そんなに大切なの?」
「返せって」
俺の催促なんて聞こえていないかのような態度で、底の文字に気付いた灯はまた不思議そうに目をパチクリとさせる。
嫌な、予感がした。
その名前だけは、口にしないで欲しいのに。
「達男…って?ともだ」
「返せって言ってんだろっ!」
拒絶反応、とでも言うべきなのか。
耳にした瞬間、プツリと糸が切れたみたいに叫んでしまった。
静まり返ってしまった教室に、我に返った時にはもう手遅れで。
驚愕した表情で、残っている同級生達に見つめられていた。
ああ…もう何してんだ俺…。
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