3.人形供養師

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 「わたし、ちょっとおばあちゃんの様子、見て来るね。」  そう言って、家とは反対側の本堂を覗き込んだ。  「そうねぇ。少しはおばあちゃん、休ませてあげないとね。いくらあなたと紀和の面倒を赤ちゃんのころから見てたからって言っても、もう、十年以上まえのことだしねぇ。」  ちなみに、紀和と言うのは二つ年下の弟で、さっきの良太と同級生だ。  「うん。私が見ている間に夕飯、食べさせてあげて。」  「お願いね。多分、2、3時間も休めばいいと思うから。」  人形供養は気力体力共に、ひどく消耗する。  なにしろ、蓄積された感情―これを念と呼んでいるけれど―を、解放し、それを受け止めて、人形たちの体を無にするのだ。  人間同士だってさまざまな感情に曝されれば、それだけで疲弊する。  なにしろストレスで病気になったり、精神に異常をきたしたりすることもあるくらいだ。  物言わぬ人形たちに蓄積された念は、その根本が完全に埋もれてわからなくなるほどのものだ。  それを受け止める時の反動は凄まじい。
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