名村、裏の顔・『密命』

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名村、裏の顔・『密命』

名村は、官僚たちがひしめき合う大部屋に戻ると、すぐさま表情を変えた。 「よろしいか、諸君。今回の留学に関しては、全く別の使命を帯び、別行動を取る者がいる。宿泊先も、我々とは別だ。中心にいるのは、例の槇貝…槇貝慎一郎だ。そして、彼のお目付役、すなわち、彼が持つ、非常に危険な『能力』が発動するのを抑えるための、スペアの『眼鏡』を携帯し、槇貝とともに行動するのが、井上、尾崎の2名である。実戦においては、女子教育の視察、という、表向きの『使命』を負った少女2名…荻野銀子と、伊藤由佳里に、事実上の戦闘のほとんどを、任せる。」 「あのう…」 恐る恐る、官僚の一人が挙手する。 「今、名村さんがおっしゃった内容につき、理解はできたのですが、『密命』とか『使命』と呼ばれている例のアレに関し、それを遂行するのはほぼ、子供ばかり…という…そういうことですか…。」 名村は、胸を張ってうなずく。 「いえ…いえっ…ちょっとそれは、常識外れと申しますか…15歳そこそこの子供には、あまりに酷ではないかと…」 ふふ、と笑うと、名村は、さっと片手を上げ、しゅっ、と振り下ろした。 「…今の動きだけで、我が政府の所有するあらゆる爆雷、地雷の全てをはるかに凌駕する、大爆発が起きる。名付けて『人間爆心地』…岩倉公の『引き』で政府に入った槇貝は、人間ではなく、兵器なのだよ。荻野、伊藤とて同じだ。幼児の時期から、銃剣の取り扱いを徹底的に叩き込まれた、我が政府の『人間兵器』であり、実のところ、戸籍上に彼女たちの名前は、ない。『兵器』であるのだから、『人間』としての実在を証明する戸籍は、必要ないのだ。」 全員が青ざめる中、名村はにやっと笑った。 「誠に気の毒な話だが、井上君及び尾崎君には、彼ら少年少女たちと、運命を共にしてもらう。…つまり、君たちの手出しは一切無用、なるべく関わり合いになるな。…命が惜しければな。」 しいん…と空気が静まり返ったまま、官僚たちは一様に名村を見上げ、一言も発することができずにいる。
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