槇貝慎一郎、登場(井上毅視点)

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井上の額に、(さっきから浮かびっぱなしだったが)汗が浮かぶ。 (この少女…最前から終始、一貫して、男性の名を名乗り、まるで少年のように振る舞っているが…。その意図は、一体、なんだ?どういう事情だ?『槇貝家』…俺が調べた範囲では、連綿と続く『当主』は、すべて男性のはず…!幼少時から周囲と完全に隔離させ、英語、フランス語、ラテン語、漢文から始まり、法律学、政治学、文学、国家思想、果ては剣術、柔術、居合道、弓道、ありとあらゆる方面の知識を叩き込み、実戦で用いてもおかしくないような厳しい訓練まで受けさせられるというが…。そんなことが、できたのか…?この、普通より明らかに華奢な体つきをした少女に…?) 槇貝が去った後、井上は思わず、尾崎に尋ねる。 「散々、『問題児』扱いされているようですが、槇貝君って、あんなお嬢さんなんですか?」 「はあぁ!?」 尾崎が、本当に、芯からびっくりした顔をする。 「アレのどこが『お嬢さん』なんだよ!目つきも悪くガラも悪い、無礼きわまりないガキじゃねえか!そうだろ?」 「いや、あの、僕が言っているのは、長い黒髪の、白い背広を着た…」 「は?長い黒髪?白い背広?…あのさ、井上君さ、吐きすぎて意識が朦朧として、幻覚を見ているんだと思うよ?大丈夫?とにかく、ベッドで休んでろよ。」 井上は、言われた通り横になりながら、考える。 (もしや…もしやとは思うが、俺の目にしか、「彼女」は、見えていないのか…?俺以外の人間が見る「槇貝慎一郎」は、ただのガラの悪い少年…?となると…?なかなか、面白くなってきたじゃねぇか…!実質、槇貝の「教育係」を一任されているのは、俺…。確かに?「しつけ」のなっていないお嬢さんは、しっかりと教育をする必要があるよなぁ…!で、話を聞く限り、よほど厳しい「教育」を受けているようだから、多少、罵倒される、ひっぱたかれる、ぐらいは、慣れているはず…!まさに俺得、予想もつかなかった最高のご褒美ですっ…!)
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