必然の出会い・銀子と由佳里

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必然の出会い・銀子と由佳里

荻野銀子は、甲板に出てはみたものの、ただそこに立ちすくんでいる他はなかった。 そこはもはや、官僚たちの社交場と化しており、銀子にとっては、「普段、何の仕事をしているのか見当もつかない、怖いおじさん」の集まりでしかない。 やがて、決意したような表情になり、人をかき分け、歩いて行く。 (あの眼鏡の子供が、岩倉公がわざわざ留学生の中に入れた、あれだろ?) (本当に、全くの子供なんだな。私の娘と、ほぼ似たようなものだ。) (途中で「お家に帰りたい」などと、泣き出したりはしないだろうな?) 悪意めいた低い笑い声が、官僚たちの間を流れる。銀子はそれを聞き流し、どんどん甲板を歩いて行く。 やがて、行き着いた先に、銀子よりも背の低い、金色の髪の毛を2つに分けて結んだ少女が、ぽつねんと佇んで、手すりに手を置いて海を眺めているのが、わかった。 「あのう…お嬢ちゃん。」 「あ、はい…あたしのことかな?」 しょっぱなから硬い、難しそうな顔をしている銀子とは対照的に、金髪の少女は、人懐っこそうな表情で笑いかける。 「もしかして『伊藤由佳里』さんですか?」 「あっ…!」 金髪の少女は目を大きく見開き、口元を手で押さえた。美しい碧眼が、陽光に眩しく光る。 「もしかして、あなたが、『荻野銀子』さん?」 「そうです。…あの、失礼かもしれませんが、あなた、生粋の日本人ではありませんよね?」 「あたしも、そう思うんですけど、日本に来た前後のことを、よく覚えていないんです。 …日本に来た途端、『女衒』に騙されて、持っている荷物を、すべて奪われました。だから、あたしの身元に関して、何らかの手がかりを思い出させてくれるような『もの』は、もう存在しませんし…。いきなり、吉原の小汚い女郎屋で、客を引かされたのですが、その、ちょうど第1日目に、『岩倉公の使いの者』と名乗る、黒服の官僚さんに、身元をすべて、買い取られまして…。それから、岩倉右大臣に直接、お会いしてお話をうかがい、日本語の勉強とともに、『魔法少女』となるべく、訓練を受ける日々が続き、そして、今日を迎えた、と、いうわけなんです。」
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