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ボロ安宿にて
「おーい、眼鏡っ娘にロリっ娘。」
槇貝が、呼びに来る。いつの間にか、甲板から人の姿は消えていた。
「名村サンから全員に連絡だ。船が、もうすぐ着くらしいぜ?」
「あの、ウチら、どこに泊まるんですか?」
思わず、銀子が尋ねる。
「オレ様たちは、名村サンのグループとは別行動なんだそうだ。井上、尾崎と一緒に、パリ郊外の『オテル・ド・オテル』に宿泊する。オレ様、井上・尾崎、名村サン中心のグループは、パリ大学法学部で、ボアソナード先生の授業を受ける。法律のな。その間、お前らは、『リセ』等々、教育機関の視察な。相手側とはすでに日程の調整が済んでるから、この前、配った『日程表』をよく確認し、和服ではなく洋服に着替えて、視察を行ってくれ。よろしく頼むぞ。」
* * *
「こ…こ…?オレ様、生まれて初めて自信を失ったんだけど、ここで合ってるの…?」
槇貝一行は、しばし呆然と、その、ボロアパートとしか言いようのない安宿を見上げる。
『いらっしゃい。遅かったじゃないの。待ってたわよ。』
これまた、場末のバーで身を持ち崩したような、プラチナブロンドの髪に真っ赤な口紅を塗った中年女が、壁に寄りかかって煙草を吸いながら、よりによって井上に声をかけた。
もちろん、井上は、相手の言うことが全く理解できていない。かろうじて『ボンジュール』が聞き取れたぐらいである。
「あ…う…」
とうめきながら、井上、たぶん誰にもわからない謎のジェスチャータイムを始める。…横で、槇貝が吹き出した。そして、1歩、前に出る。
『ごきげんよう、マダム。私どもは、日本から来た留学生の一団です。早速で恐縮ですが、私たちに、それぞれの部屋をご紹介いただき、鍵をお渡しいただけませんか?』
『うちは、空き部屋ばっかりだったものねーぇ。こんなにまとめて入っていただけると、ありがたいわ。』
管理人は、埃っぽい廊下へと入って行く。
『ギンコ!ユカリ!ちょっといいかしら?』
『初めまして、マダム。私の名は、ギンコ・オギノです。これから、よろしくお願いいたします。』
『ごきげんよう、マダム。私は、ユカリ・イトウです。お見知りおき下さいませ。』
『その2人が、この広めの相部屋。…ああ、お嬢ちゃんなのね。ギンコ、あなたの黒髪、とてもエキゾチックね。』
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