「死の宣告」と「葬式」から始まる人生・槇貝慎一郎の事情

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「お前たち、分かるか…?そうじゃ、この赤子は、わしの話したことを、すべて理解しておる…!『あい』としか言えぬのは、舌も歯も未発達…つまり、普通の言葉を喋るだけの『器官』をほぼ、持たぬゆえだ。 さて、お前たち…!取り急ぎ、この赤子の『墓』を作れ…!この子はもう、お前たちの可愛い子ではない…!今、この瞬間、死んだのだ…! この子を、『慎一郎』と、名付ける…!あとは、生活の世話から勉学、剣術に至るまで、すべて『本家』で、管理を行う…!」 「畏れながら…」 侍女の1人が当主に近づき、耳打ちをする。老人は、大きくうなずいた。 「構わぬ、構わぬ。その程度のこと、この槇貝家当主であるわしが、気に病むほどのことではないわ。なあに、多少の『術』を用いる、すなわち幻術じゃな、それで、一般普通の人間であれば、いとも簡単にだまくらかせる、その程度のことじゃ。何せ、この赤子の『墓』を作り、身内を集めて大がかりな葬式を執り行ったその時点で、この子はすでに『死んで』おる。…で、あるとすれば、この子を槇貝慎一郎と名付け、当主たるべく、日々、文武両道を徹底的に叩き込む…。それで構わぬではないか。何の違いがあろうぞ。」 「余計な考えを申し述べたわたくしの、底が浅そうございました。誠に誠に、申し訳ございませぬ。」 侍女は、深々と頭を下げ、後ろにさがった。 …こうして、槇貝慎一郎の「一生」は、始まった。
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