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「おい。…まさか、今ので、掏り取ったのか…?私の背広の、1番奥の内ポケットにしまった財布を…?
何故、財布がそこにあることまで分かるんだ…?」
銀子は黙って、服の内側から、黒革の、分厚い財布を出した。
「うっ…!」
今度は、岩倉が青ざめる。
「あんなぁ…真正面からぶつかってもええんやったら、財布の中から紙幣だけを抜き取って、元の位置、ポケットに返しておくこともできまっせ?」
「…決まりだ。」
岩倉は、自信に満ちた微笑みを浮かべると、デスクを平手で、バン!と叩いた。
「司法省随行官員、荻野銀子!目的は、女子教育の視察!…これでいいだろう。おい、銀子とやら。誠に残念だが、『かっぱらいのお銀』は、本日をもって、処刑された!掲示には、そのように書いておく。今日からお前は、『荻野銀子』だ!
おい、明日から、こいつに徹底的に、フランス語を学ばせろ。子供だから、覚えは早いはずだ。そして、もう1つ、重要な任務がある!こいつに、射撃の訓練…ほぼ、あらゆる銃を扱えるように、叩き込め。軍隊並みの厳しさで、一向に構わん。私はいわば、こいつを食わせてやるのだから、それぐらいの見返りは、要求してもいいはずだ。」
並み居る官僚たちが、ほぼ全員、青ざめてうつむいている。
「こんな子供に…射撃、ですか…?」
「そうだ。おかしいか?」
「最初はベレッタ…あるいは、模造銃…あたりですか?」
「馬鹿者。こいつが最初に体得するのは、スナイパーライフルだ!」
岩倉はデスクに座ると、机の上の資料をぱらぱらとめくった。
「…うむ。着実に、固まってきたな。荻野銀子、名村泰蔵、井上毅、尾崎三良、…すでに、もう1人、候補が上がっている。銀子の遊び相手には、ちょうどいいだろう。」
「ちょっと…お待ちになってください…。」
リーダー格の官僚が、青ざめながら口を挟む。
「井上毅…彼は確かに、漢文のかなり高い素養があり、大久保公(注:大久保利通)に重用され、『藩閥』ではないにも関わらず、頭角を現してきました。
本人は、『フランス語を数年間、勉強した』と、自信たっぷりに話しておりますが、試しに『司法省法学校』の試験を解かせてみたところ…惨敗です。特に会話、日本人の試験官がテストをしても、ほぼ理解できない状態です…。おそらく、無名の私塾で学び、あとはほぼ、独学に近いと思われます。
尾崎三良に至っては、外国語が全くできません…!」
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