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私は妻が寒くないように、ヒーターと加湿器を最強にして窓際に置き、暖かい服を着せ、縁側に分厚い座布団を置いてその上に座らせる。
「どの花火をやる?」
「じゃ、線香花火を」
「分かった、はい」
妻に線香花火を渡し、その先端に火を点ける。
妻の身体に雪が積もらないように私は、妻の頭上に傘を差し伸べた。
雪降る夜の花火は、雪明かりに灯され、これはこれで風情がある。
妻は線香花火の最後の火種が雪の上に落ちる度、次の線香花火を私にねだった。
「2人が小さかった頃を思い出しますね」
「そうだね…………」
無心に線香花火に没頭していた妻が、ふと顔を上げ、妻の脇で妻の持つ線香花火を、同じように無心で見つめていた私を見上げる。
そして、プッと吹き出した。
「お父さん。
私に傘を差し掛けてくださるのは嬉しいけど、あなたが雪だるまになっていますよ」
「え!?あ! 本当だ」
私は、私の身体に降り積もった雪を払い落とす。
「後ろを向いてくださいな」
妻はそう言い、後ろを向いた私の背中に積もった雪を、払い落としてくれた。
「あ――楽しかった」
「もう良いのかい?」
「ええ。
残っている花火は、子供達が帰って来てからみんなで楽しみましょう」
「そうするか」
妻を、花火を楽しんでいる間、布団乾燥機で温めておいた布団に寝かせる。
「あ――温かい」
「おやすみ」
「おやすみなさい」
妻を寝かせたあと私は、夕食の後片付けをするため台所に向かった。
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